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夢を飲み込み人を吐き出す島。その4
山から下りてきて、一日数本しか走っていないバスに乗り込む。シートに腰をおろした瞬間、慣れない山道での緊張感や、無事下山できたことの充実感、達成感の入り交じった心地のいい疲労感がジワッと体中に広がる。曲がりくねった道の先に真っ青な海が見える。もう明日はこの海の向こうへ戻るのだ。そんなことを思いながら長い間バスに揺られていた。
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民宿にもどり、シャワーを浴びて、コインランドリーに洗濯物を放り込み、沈みかけた夕日の中、港の方までまたバスで向かう。どこに入る?と涼しくなり始めた海からの風にふかれながら、とろとろとお店を探す。田舎の夕暮れ時は、嫌いではないけれど、今も昔も好きにはなれない。それは単純に淋しいから。

お店に入るとどこの席にも山から帰って来た若人が、楽しげに今日の出来事を共有し合っている。そんな声に耳を傾けながら、この日、消費したカロリーを完全に上回る量をたいらげる。ただ、がっつり飲む元気は残っていなかった。田舎の夜は早い。そして暗い。東京にいると感じなくなるけど、本来そうあるべき姿がここにはあるのだと思う。感傷というわけではないけれど。月がきれいやなぁ。ほんまやなぁ。星もきれいやなぁ。そやなぁ。無意識でこぼれるそんな言葉が必要なのだと思う。民宿に辿り着き、帰り支度を済ませ、バタンと布団に倒れ込む。
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翌日12時、屋久島を出港。昨晩の居酒屋で、島内のバスの中で、そして、フェリーの上で、山で見かけた人や、こんにちはと声を交わした人達の姿を目にする。みんな、どこか放心したようなふわふわした気の抜けた印象をうける。きっと自分たちもそうなのだ。非日常の中に身を置くことは、ある種の高揚感や幸福感を伴う。ロマンだとかロマンスだとか、何かを期待し、何かを望む。そんな淡い想いをこの山は、この島は、吸い取り飲み込み成長しているように思えた。そしてそんな邪念をパクリと食べられ、知らず知らずのうちに少し身軽になって、僕らはペッと吐き出されたような気がする。はぁ〜とつく溜め息に、心のどこかに空虚感やら虚無感、小さな、あるいは大きなポッカリと空いた穴を認める。きっとそれは何かがなくなったわけじゃなく、少し大きくなった、許容量の増したスペースなんだと思えばいい。それがいっぱいになったら、またぷらっとどこかへ向かえばいいのだ。そしてまた少し大きく、少し自由になってここへ帰ってくればいいのだと思う。
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by monday_panda | 2010-08-30 09:05 | daily | Comments(0)
夢を飲み込み人を吐き出す島。その3
午前4時起床。寝ぼけ眼で朝飯をかき込み、こぼれ落ちそうな満天の星空の下、タクシーに揺られ、もののけ姫のモデルになった森のある白谷雲水峡へ向かう。登山口に5時に到着。もうすでに入念にストレッチをしているグループもいる。東の空が明るくなるのを待ち、5時半登山開始。しんどい、疲れた、ダルい等の弱音を吐くごとに罰金!というルールを決めて、一歩一歩、森の中へ。登り始めてしばらくすると途端に整備されていない山道になる。侵入者を拒むように足下はぬかるみ、山肌には岩が牙をむく。そんな中、鹿の親子がこちらをうかがっている。空を覆う緑を通して降り注ぐ朝の光や、水滴をたっぷり抱え込んだ苔、山の音、緑の匂い、土の味、大自然に生かされている感覚。もののけ姫の舞台となったというその森は、美しさはもちろん、ある種の恐怖感さえ漂う。立ちすくむ僕らをカラカラとコダマがそこいらで笑っている。のだ。きっと。
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某カード会社のCMで、柴咲コウがほっぺたを赤らめながら緑の中を無心に歩く映像が頭の隅に残っていて、どうしてもそのラストシーンで登っていた、太鼓岩に行ってみたくて、急傾斜の道を、動悸を速め呼吸を乱しながらも、一心不乱に突き進む。高校の部活なんかよりもキツい。薄暗い木々がパッと開け、ずっと隠れていた空が突然目の前に広がる。まだ温まりきらない朝の空気に包まれ、岩の上に、空の中に立つ。涙は出ないけど、ふっと気がユルみ力が抜ける。来てよかった。そう思った。
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ここからは年間1万人ほどの観光客が訪れるという、屋久島の代名詞・縄文杉を目指す。何キロも続くトロッコ道を進み、更に山の奥へ奥へと足を踏み入れる。イメージとしては、縄文杉強制収容所にゾロゾロと隊列をなして連行されるような感じ。シュールな構図だ。どれくらい歩いたろうか?もう邪念も何もなくなって来た頃にようやく姿を現した、屋久島のドン。デカイ。ただ、想像以上の感動はなかった。どちらかというと登りきったことの方に感動。意外とそんなもんだ。

山を下りる。登ってきたルートとは別の道で。時々ひょいと顔をだす鹿や猿に声をあげながら、木漏れ日の中途切れることのないレールに沿って歩く。もちろん頭ん中のBGMはスタンドバイミー。あの4人は何を求めて冒険にでたんだっけ。もう思い出せない。もう忘れてしまった。ハイライトはいつもその道のりの途中だ。
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by monday_panda | 2010-08-28 08:45 | daily | Comments(6)
夢を飲み込み人を吐き出す島。その2
朝7時半、港に向かう。朝の陽射しなのにもうジリジリと肌を焦がす。二等客室のチケットを購入後、デーンと停泊しているフェリーに乗り込む。『あの、紹介してもらった者なんですが』と係員に声をかけると『あぁ、どうも、こちらへどうぞ』と和室の素敵な部屋へ案内された。なんだかすみません、と恐縮してしまう。屋久島に到着するまで4時間。とりあえず、縄文杉へはどうやって行くのかさへ知らないので、二人でガイドブックを熟読する。定番のルートではなく、もののけの森を通って、太鼓岩に登ってから、縄文杉を目指そうと決定するも、若干、山を、屋久島をナメていたことに気づく...。"大丈夫かなぁ..."と募る不安をかき消しかき消し入港まで眠りにつく。
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12時半、着岸。宮之浦岳の頭はすっぽりと雲に覆われている。山の天気はもちろん、島の天気もころころと変わりそうだ。民宿のお兄さんの運転でまずは宿へ。2泊分の料金を払い部屋に入ると、なんだか気分は修学旅行生。さすがに二人でキャッキャと枕投げはしないだろうけれど。

今日半日は車で島を巡ろうと、さっさと宿を出て、すぐ近くのレンタカー屋さんへ。『すみませ〜ん!』と覗き込むも居るのは犬だけで人の気配がない。仕方なく電話してみると『いつ戻るかわからないから、ほかをあたれ』との対応。のんびりしたもんだ。せかせか働いてた頃がバカみたいに思えてくる。しばらく歩き別のお店で車をレンタル。Mくんの運転で、島を一周する海沿いの道を窓全開ですっ飛ばす。気持ちがいい。左手に海、右手に山、視界に広がる大自然、もうなんだかこれだけで満たされていたりもする。晴れていたかと思うと、突然の豪雨。そしてまたカラリと晴れ上がる。乙女心と秋の空、ならぬ島の空。
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民宿のお兄さんもオススメの、港からちょうど島の反対側に位置する、九州最大の高さを誇る大川の滝へ。これが見事だった。豪快で爽快。その後も千尋の滝や海中温泉を観光しつつ、明日の為に、買い出し、レインスーツのレンタルをして夕方、宿へ戻る。途中、コンビニに寄った時、見上げた東の空に虹が出ていた。ようこそ屋久島へ。そんな大きな虹が。

明朝4時起きなので、今日は近場にしとくかと民宿のお隣の居酒屋へ入り、飛魚定食とビールで腹を満たす。波の音と海風が心地いい。『ごちそうさまでした〜』の声に『明日、頑張ってね』とお店のおかみさんの励ましのお言葉。宿へ戻り、お互い明日の健闘を祈りつつ、学生のように恋バナなぞする元気もなく、10時に消灯。明日はいよいよ入山だ。
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by monday_panda | 2010-08-26 23:15 | daily | Comments(0)
夢を飲み込み人を吐き出す島。その1
『20日に鹿児島集合なぁ』と高校の友達Mくんから連絡があったのはお盆。前回の熊本集合といい、今回の鹿児島集合といい、地元の友人達、昔から薄々気づいてはいたけれど、いささか強引だ。とはいえ、なんだかんだでそれにのっかる自分も...どうかしているぜ。とりあえず就活を一時停止して、行くことにした。
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木曜の夜に新宿から高速バスに乗り込む。ノンストップで本州を駆け抜け福岡に到着したのは金曜のお昼前。すぐに鹿児島行きのバスに乗り換え、鹿児島中央駅に着いた頃には太陽はオレンジを強くしていた。バスに揺られること18時間。さすがに30を迎える身体には少々キツい。駅前の喫煙所でぼけ〜っと3ヶ月ぶりに見る鹿児島の景色を眺めていたら、Mくんが『よおっ!』とやって来た。まるで、渋谷で待ち合わせでもしたように、いつもと何も変わらない感じで。
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この日はもう屋久島に渡る船がないので、鹿児島で一泊することに。とりあえず登山用の服を買って、天文館あたりで宿を探す。安くて薄暗いビジネスホテルに荷物を放り込み、賑やかになり始めた繁華街へさっさと飲みにくり出す。ぐるっと迷いながら一周し、ほっそい路地の小さな居酒屋に決める。ここにいい出会いがたくさんあった。誰もいない店のカウンターで二人で乾杯。いつもと変わらない感じでぐでぐでと飲みはじめる。そこへ美人さんを同伴したちょいワルオヤジが入ってきた。最初は別々で飲んでいたけれど、店長が2組の間に座り飲みはじめ、カウンターに5人並んでペラペラとお喋りが始まる。土建会社の社長さんだというちょいワルオヤジは四十路を越えなお、三十路を迎える僕らよりはるかにギラギラしているのだ。社長の武勇伝から、仕事、恋愛、結婚、将来について。酔っぱらいの典型的なトークのパターンだけれど、とても魅力的な言葉に聞こえた。『いい夜を』の言葉と『気持ちだ』という飲み代を残して二人は夜の街に消えて行き、残った者で杯を交わす。
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『明日、屋久島に行くんですよ』と言うと店長が『知り合いが屋久島で働いてるから宿紹介するよ』『知り合いがフェリーで働いてるから紹介するよ』と、呑んで酔っぱらっているだけで超格安で素敵な宿と、フェリーの特等室が手に入った。『結局、人とのつながり』その言葉に大きく頷き『ありがとうございます』と深々と頭を下げる。なまぬるい南国の町を、ふらふらと、こころぽかぽかでホテルへ帰り、ベッドにガクンと崩れ落ちる。明日は屋久島へ出港だ。
 
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by monday_panda | 2010-08-25 23:20 | daily | Comments(0)
踊る光と歌う影の町。その5
キューバ滞在最後の日、この日は晴れ。カーテンを勢いよく開けると部屋中に光が溢れる。目が痛い。夕方の便でカンクンへ向かうまでの間、いつものように青い海を見に行き、釣りをしているおじさんのバケツを覗き込み、通ったことのない狭い路地をうろうろブラつき、観光客の群がっているフリーマーケットを物色したりして過ごす。
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この数日、よく歩いた。ビーサンの跡がくっきりと足の甲に焼き付いている。部屋に戻りバックパックにぎゅうぎゅうと荷物を押し込み昼過ぎ、タクシーに乗って空港へ向かう。到着した時と変わらない風景も、わずかな時間でまったく違ったものに見える。第一印象も大事だけど、やっぱりそうじゃないものの方が大事。なのかね?お金を換金し、搭乗手続きを済ませ、出国審査をパスして、搭乗ゲートに整然と並ぶシートに腰かけ、時間になるまでパラパラと本を読みながら待つ。
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視線を上げれば、端まで確認できてしまうほどの小さな空港。高い天井には、世界中の国々の国旗がズラリと掲げられている。少し赤色が褪せてはいるけど、もちろん日の丸も。さすがにアメリカはないのかなぁと探してみると、あった。お隣の国同士、愛し合えとは言わないけれど、まぁまぁ、仲良くやっておくれよ、なんて思う。
ターミナルの中心部に大きな天窓があり、そこから文字通り明るい光がさんさんと降り注ぐ。これがとてもキレイだった。疲れてシートに横になって眠る人。ボケーッと飛行機を眺める人。読書をする人。ペラペラと旅の思い出話で盛り上がる人。グラス一杯のビールを傾ける人。すべての人を平等に光は照らし影を落とす。空港ではなく教会や寺院のような、とても神聖な場所のように思える。賛美歌代わりのアナウンスがスペイン語で鳴り響き、どこから入ってきたのか、小さな鳥たちがチュンチュンと我が物顔で構内を飛び回る。ここだけ時間が止まってしまったかのような美しい光景に、すべてを遮断して身を浸す。
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ここではないどこかへ。その理由はひとりひとり違うのは当たり前。向かった先に何かを求めがちだけれど、ここにいる自分に何もないから、人はどこかへ向かうのだ。そんなようなことが、たしか昔読んだ本に書かれていた。自分には何もない、と潔く認めることが出来ればどれだけラクだろうか。

時間になり搭乗案内のアナウンスに促されゲートをくぐる。アディオス、グッバイ、サヨーナラ。ここではないどこかから、どこかではないここへ。ひとり帰ることにする。
 
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by monday_panda | 2010-08-09 20:00 | daily | Comments(0)
踊る光と歌う影の町。その4
次の日にキューバを離れるという日、革命広場を見に行き、あまり観光客が足を踏み入れそうにもない閑静な住宅街や、公園なんだかただの森なんだか分からない緑地を抜け、ビール片手にとぼとぼと旧市街に向かって歩く。晴れていたかと思うと、ものすごい勢いで雨が降る。キューバの人たちに紛れてのんびりと雨やどり。昨日、町で話したおっちゃんが『明日は雨だからバッドデイだ!』と言っていたのを思い出す。雨に濡れた町が、空の水色を映した水たまりが、陽に焼けた褐色の肌がキラキラしている。これはこれで、なかなかグッドデイだ。
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歩き疲れて旧市街の端のレストランに入り、モヒートを飲み干しビールを頼む。少し離れた席に日本人っぽい女子を見つけ、しばし考える。日本人だろうか?と。まぁ、旅の恥は掻き捨てである。『すみません。日本人ですか?』と声をかけてみる。『はい。そうです。』日本でやると立派なナンパだ。まぁ、キューバでやってもただのナンパか。相席させてもらいぽろぽろと喋る。2週間程の休暇のうちにカンクンの友達の所へ遊びに行き、キューバで数日過ごし、その後ニューヨークでブロードウェイを見て帰るのだという彼女。学生の頃から海外にはよく行っているようで、スペイン語圏の国が特に好きなのだという。なんだか珍しい、そして逞しい。僕の周りの友達もピューっと海の向こうに飛んでってしまうのは、圧倒的に女の子の方が多い。いやほんと、日本の女性は逞しい。いやいや、美しい。
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レストランを出て、地元の人と観光客で華やいでいるオビスポ通りに軒を連ねるお店をブラリプラリとひやかしながら、旧国会議事堂やガルシア・ロルカ劇場を『ほほほ〜』と眺め、突然の雨にしばし雨やどり。露店の謎のジュースに並ぶ人達や、ぴちゃぴちゃと雨粒をはじく水たまりを見ながら、雨雲が流れるのを待つ。ヘミングウェイも通ったというエル・フロリディータに入る。ドアを開けると薄暗い店内には、たくさんのお客さんと陽気な音楽が溢れている。日本で数ヶ月、演奏経験があるのだというおじさんが、一番前の席にちょこんと座った黄色人種ふたりに愛想よく声をかけてくる。『コーヒールンバを知ってるか?』と遠い異国からはるばるやってきたジャパニーズのためにジャンジャン!ジャジャジャン!と演奏してくれた。そんなあったかい心意気と、自然と体を揺らす独特のリズム、そして甘ったるいダイキリが、カリブの太陽に灼かれた身体にジワッと沁みていく。
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by monday_panda | 2010-08-06 23:55 | daily | Comments(0)
踊る光と歌う影の町。その3
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3、4日、町を歩いただけでキューバの何が分かるというわけでもない。キューバ革命から50年。ゲバラやカストロがこの国の人々にどれほどの革命の志や愛国心を植え付け、残していったのか。大国を向こうにまわし、歩んで来た社会主義国家としての在り方は、一介の旅行者である自分には汲み取ることさえ出来ない。頭で考えるな、心で感じろ。なんてのも無理。感じれとれるだけのキャパと知識が足りない。ただそれでも、簡単に感じられることもある。

はがれたペンキ、崩れかけた壁、犬の糞だらけの路地、軒先で一点を見つめ葉巻をふかす老人、上半身裸の酔っぱらい、廃車同然のクラシックカー、決して美しいとはいい切れないそれらが、何の遠慮もなく照りつける陽射しにさらされ、綺麗に影を落とし、町中至る所からからこぼれてくる音楽に包まれると、息をのむほどの圧倒的な力で、眼前に浮かび上がる。逞しく美しい。そしてどこか刹那的でもある。ただその景色を見たからといって見聞が広まるわけでも、著しく賢くなるわけでもない。それを見た、その事実だけが自分の中にストンストンと蓄積されていく。その蓄積されたものがどんなふうに変化していくのかはまだ自分でも分からない。
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相変わらず町を歩くと『オッラ!ハポネ!』とそこかしこからお声がかかる。走り去って行く馬車の運転手や、公園のベンチでお喋りしている老人、防波堤で釣りをしているおじさんに、家先でたむろしている同じ年頃の青年、モロ要塞の船の監視官に、あきらかに怪しい大道芸人やレストランのウェイター。誰も彼も陽気に、気さくに話しかけてくる。

『キューバは暑いけどいいところだろ?綺麗だろ?』『何処を見に行ったんだ?モヒートは飲んだのか?』『ハバナに何日いるんだ?今夜なにすんだ?一緒にダンスを見に行こう!』『カストロも吸ってるんだから葉巻を買え!』『日本のスピリットは侍だろ?キューバはサンテリアなんだ!』『ワールドカップはおもしろかったな!』とかとか、こっちの返事はおかまいなしに、スペイン語と英語でまくしたててくる。お国柄なのか、単純にひやかしなのか。どっちにしろこんな時、英語が喋れなくてどうもすみません思う。中には騙して葉巻でも売りつけてやろうという輩もいたけれど、それはそれでなかなかおもしろかった。アイキャントスピークイングリッシュアンドスパニッシュ。オンリージャパニーズ。まったく、どうにかなるさの能天気な旅行者である。
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by monday_panda | 2010-08-05 23:46 | daily | Comments(2)
踊る光と歌う影の町。その2
排気ガスと潮風にまみれながら30分も歩いていると汗が噴き出してくる。ブンタ要塞近くの防波堤で一服していると、遠くから二十歳そこそこの3人組に『ハポネ!ハポネ!』と声をかけられる。一人が近づいてきて、しっちゃかめっちゃかの会話が始まる。スペイン語で話しかけられるもまったく分からない。英語も混ざっているようだけど、いまいちよく分からない。それでもお互い諦めもせず、身振り手振りメインの会話は続く。客席に座って二人のやりとりを字幕付きで見てみたい。きっと支離滅裂でシュールな物語が展開しているはずなのだ。最後に『キューバを楽しんで!』という言葉を頂戴し別れる。もちろんもちろん、楽しみますとも。
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チェ・ゲバラ、カストロ、ヘミングウェイ、キューバの象徴でもある、世界的にみても有名なこの人物たちのことを、僕はこれっぽっちも知らない。知らないということは時に罪にもなりうる。知らない分からないで通用することは、歳を重ねるごとに減っていく。30年も生きていれば尚更だ。だからというわけではないけれど、地球の歩き方に写真付きで紹介されている観光名所くらいは見ておこうと、旧市街に点々と広がるそれらを目指し、町中を歩き回る。それにしても日本人、アジア人を見かけない。ポテポテと歩いていると、とびきりの笑顔とサムアップつきでよく声をかけられる。『ハポネ!ハポネ!』と。ハポネに続いて8割くらいの割合で『サヨナラ』とも言われる。『コンニチハ』ではなく『サヨナラ』。出会ってすぐの挨拶が『サヨナラ』。キューバに着いたばかりだというのに『サヨナラ』。どこで、誰に教えてもらったんだろう?とりあえずこちらも笑顔で『アディオス!』と手をふる。花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生だ。ただサヨナラだけの人生じゃ、つまらない。とも思う。
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また別の日、ホテルの前でぺちゃくちゃとたむろしているタクシーの運転手さんに声をかけて、郊外にあるヘミングウェイ博物館まで連れて行ってもらう。ドライバーは母親と同じ年頃のおばちゃん。町ですれちがう人達のように、何かを話しかけてくるわけでもなく、ふふふ〜ん♪ふふん♪と終止気持ち良さそうに鼻歌を歌っている。僕は鼻歌の聞こえる空間が好きだ。ボロンボロンとタクシーは排気ガスをコレでもかというほど吐き出しながら、初めて見るキューバの町並みを勢いよく走り抜けて行く。ヘミングウェイの屋敷は静かな高台にあり、白い雲と青い空、その下に色とりどりに広がる町並みが一望出来た。どこまでも続いている、果てのない感覚。ここで書かれた何かしらを日本に帰ったら読んでみようと思った。文豪の愛したその町の空から、きっと続いている日本の空の下で。
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by monday_panda | 2010-08-04 23:30 | daily | Comments(2)
踊る光と歌う影の町。その1
ワールドカップも終わって何もすることがなくなった。そろそろ潮時。こんなぼんやりとした府抜けた生活も。

会社を辞めてから極端に電車に乗る機会が減り、めっきり本を読むことが少なくなった。一番の読書スポットが電車の中だったというせいもある。最近はすっかり自転車生活。それでも最近読んだ2冊に沢木耕太郎の『「愛」という言葉を口にできなかった二人のために』と角田光代の『いつも旅のなか』がある。まったく興味もない、思い入れもないキューバに行ってみてもいいかなと思ったのはこの2冊のせい。せいというよりも、おかげか。「愛」という〜の中の『彼らの旅』ではキューバの英雄チェ・ゲバラのことが語られており、いつも〜の中の『いのちの光』では、著者のキューバの旅が綴られていた。人は偶然を運命だと勘違いすることが得意だ。偶然を必然だと思い込むことで、ある種の魔法を自分にかけてみたりする。せっかくかけたその魔法が解けて、熱が冷めてしまわないうちにさっさと大嫌いな飛行機に乗ってキューバに行くことにした。
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ここではないどこかへ行きたいという欲求は、おそらくあまり強い方ではないと思う。国内も海外も。機会があれば、誘われれば、その程度だ。言葉が通じない、面倒くさい、遠い、家がいい、理由という名の口実をあげれば切りがない。ひとりが好きなくせに、とことん一人なのはどうやら苦手なようなのだ。一人で過ごす時間がやたらと増えたここ最近、そんなことに気がついた。
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キューバは遠い。想像以上に遠い。成田→ヒューストン→カンクン→ハバナ。往路はトランジットも含め20時間以上の移動。ホセ・マルティ国際空港に到着した時、すでにあたりは真っ暗。空港からホテルへ向かうタクシーから見える景色は、ぽつぽつと寂しく灯る街灯の光と薄暗い路地ばかり。第一印象は不合格。必要以上に不安になってしまう。ホテルに着いた頃には時計の針は午前零時を回っていた。といっても、もう時間の感覚もあやふや。丸一日、慣れない英語とスペイン語にもみくちゃにされ、頭もボーっとする。どれどれとガイドブックを開いたまま、知らぬまにカエルが潰れたような格好でスコンと眠りに落ちていた。
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時差ボケというほど酷くもなく、朝になるとしっかり目が覚めた。ホテルのレストランで、大勢の欧米人に混ざって海外らしい朝食をとる。特に予定も見たいものも決めていないけれど、まずは海を見よう。と通りの先に見える水平線を目指す。海岸づたいにのびるマレコン通りに出る。海と空をスパッと二つに分けている水平線は今まで見たどれよりも力強い。ブロロン、ブロンとボロボロのアメ車が勢いよく突っ走り、観光客も地元の人も防波堤に腰かけただ海を眺めている。遠くに来たなぁ、そんなことを思いながら、その先に広がる旧市街に向かってペタンペタンと歩きはじめる。
 
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by monday_panda | 2010-08-03 23:00 | daily | Comments(0)
海の向こうにある町。
天神バスセンターから小倉駅まで1時間30分。ここから鹿児島本線に乗り換え門司駅へ向かう。予定の時刻よりも早く着いてしまうので、少し時間を潰そうと、門司港駅まで足をのばす。山口県下関は目と鼻の先だ。途中、地元の高校一年の悪ガキどもが10人程乗り込んできた。どかっと床に腰をおろしペラペラ喋りはじめる。すべてのものに虚勢をはるような、威嚇するような、なんか強がったそんな姿。15年前の自分たちもこんなだった。15歳。青い春。若いってそれだけでいいな。

この門司港は駅周辺に点在する歴史的建造物を観光の目玉にしている。ホームに降り立った瞬間に、そのレトロな味わいのある駅舎に魅了される。とりあえず時間の許す限り見れる所は見とこうと、1時間スタコラスタコラ駆け足で観光スポットを巡る。
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門司駅へ戻り、乗り合いタクシーで新門司港へ。一度どうしても乗ってみたかったフェリーで、東京へ帰ることに。7日、19時に北九州を出港し、翌日、徳島に寄り、翌々日の5時半に東京に入港する。35時間ほどの航海。かるく海賊気分だ。大型トラックの運ちゃん達、ツーリングで遠征していたバイカー、家族連れにカップルに独り者、すべての人と運命共同体。沈めば終わりだ。九州の空がゆっくりと暮れていく。乗船した人達が吸い寄せられるようにデッキへ集まり、数分間、キレイに茜色に染めあげられた西の空を見上げる。ただただ、美しい風景だと思う。
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大海原へ走り出した船の上、それぞれ思い思いに時間を過ごす。テレビを見たり、お喋りをしたり、本を読んだり、ゲームをしたり、物思いにふけったり、昼寝をしたり、潮風にあたったり、日光浴をしたり、ドドドドドという心地いい揺れを感じながら、動き回っていた昨日までとは違う、何も始まらない一日をたんたんとやり過ごす。
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9日、4時過ぎ目を覚まし甲板へ出る。風が冷たい。東京はもうすぐだ。
くすんだ水平線の向こう。その強すぎる光で海と空の境界線はまっ白に輝き、そして少しずつ少しずつ色を取り戻していく。そんなふうにして、今日がはじまる。そんなふうにしてまた、一日がはじまる。
 
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by monday_panda | 2010-05-31 19:51 | daily | Comments(0)



イラストレーター栄元太郎のブログ。イラストや写真や言葉。溜まったものを、ぽこぽことアウトプット。
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