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ぎゅっとして、はなさない。
 『今日は十数年ぶりに地球に月が大接近するから、月が大きいよ』と半年ぶりに会った友達が教えてくれた。その友達と夜の四谷三丁目を並んで歩く。被災地へ電力を供給するために普段よりも暗いビルの上に、確かにいつもより少し大きくてまんまるな満月がポコっと浮かんでいた。どんな願い事も叶いそうな、あたたかくてやわらかい光に満ちている。

 土曜日、お昼過ぎ、人もまばらな地下鉄に揺られ四谷三丁目へ。大学の友人の個展を見に出かける。この日が最終日。駅から少し離れた狭い路地にある、一階がカフェ、二階がギャラリーのコーヒー屋さん『ゑいじう』に入るとコーヒーの香ばしい香りに包まれる。マスターと奥さんが『二階にたくさんあるよ』と迎えてくれる。二階に続く階段にも展示された作品を、一枚一枚見ていると、どこかに出かけていた作家さんである友人が戻って来た。階段の上と下で顔を見合わせて『おぉ~、元気?』と言葉を交わす。いつもの『元気?』とは少しニュアンスが違うのも感じる。
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 地震の起こった直後からの個展開催ということで、彼女もぐるぐると思い悩んでいた。開催するべきか自粛するべきか。たくさんの人を集め、メディアでも取り上げられるようなイベントやライブは、どれも軒並み延期、中止だけれど。またそういうものとは性質が異なるものだから。何か出来る環境があって、自分にその意志があるのに、それを放棄することは単純にもったいない。
 『今、私たちにできること』なんて言葉も、テレビやネット、ラジオで毎日、目にしたり耳にしたりするけれど、何も自分に出来ること以上のものを、新たに無茶なエネルギーを使って開拓することだけが正解ではないと思う。それぞれの日常の延長線上に出来ること、やるべきことはいくらでも転がっている。ちょっと足を止めて、ちょっと寄り道をして。それを蹴飛ばしたり、見て見ぬふりをしなければいいんじゃないのかな?と僕は思う。
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 あたたかな午後の光の差し込む白い空間で、何も変わらないように思える時間の中で、震災のことや制作のこと、三十路を迎えた心境や近況をぽつぽつと言葉にし、彼女の想いのつまった、分身のような作品を眺める。相かわらずステキな愛しい作品たちがこちらの様子をじっと窺っている。
 この日、搬出してそのまま広島へ帰るというので、窓の外が深い青になり始めた頃から撤収作業を手伝う。50点にも及ぶたくさんの作品たちを丁寧にプチプチに包みながら、もっともっと、たくさんの人に見てもらえればいいのになぁと思うのだ。何点かは新しい飼い主さんのところにもらわれていくそうだ。よかった、よかった。

 普段よりも人が少ない新宿へ続く道。照明を落とした暗い高速バス乗り場。それを補うように光を落とすまんまるの月の下、いつもよりも大きく手をふって友達を見送り、家路につく。

 今、私たちに出来ること。支援、節電、寄付、まだまだいろいろ。海外からも、著名人からも、そして何より、日本に生きるすべての人が、それぞれがそれぞれのやり方で、少しでも明るい方へ明るい方へと望んでいる。そのエネルギーはとてつもなく大きい元気玉になって東北へ、信越へ、東海へ、日本全国へ届くはず。届き始めているはず。
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 昨日も近所をぷらり歩いていると、小さな子の手をひいて商店街を歩くパパやママ、チャリンコに2人乗りで楽しげに走り去って行くカップル、のんびりとひなたぼっこする年配のご夫婦、大声を出して公園で走り回る小学生のグループ、塾の前でケラケラ笑っている高校生たち、多くの人たちのかけがえのないの日常を目にする。大して特別だとは思うことのない、その特別な日常を手放さないでいてほしい。しっかりとその手でその心でつなぎ止めていてほしい。ぎゅっとして、はなさないでいてほしい。大切な家族、大好きな恋人、大事な仲間。顔を見て、声を聞いて、頷いて、手をつないで、肩をたたいて、一緒に笑って。当たり前の特別な一日一日が、誰からも逃げて行かないように、ただただそんなことを願うのです。
 『こんな時だから』って言葉を口実にしてでも、今日も明日も明後日も、大好きな人とつながっていようと思うのです。大切な人に会いにいこうと思うのです。これも、今、自分にできることのひとつだと思うから。
 
by monday_panda | 2011-03-21 14:34 | art | Comments(0)
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イラストレーター栄元太郎のブログ。イラストや写真や言葉。溜まったものを、ぽこぽことアウトプット。
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